はじめまして。
”削ラー”の山本美奈子と申します。
福岡県福岡市出身。熊本県小国町に移住して5年目になります。
“かつお節を削る暮らしを次の世代に紡ぎたい”という想いで、約10年ほど前から手のひらサイズのミニ削り器を持ち歩き、かつお節を削る“楽しさ”“美味しさ”を体感してもらい、その魅力を伝える“削ラー”活動をしています。
きっかけは、全身蕁麻疹事件
OLバリバリだった頃、暴飲暴食と不規則な生活が原因で、ある日、全身に蕁麻疹が発生。それまで“食べること”に全く興味がなかった私は、はじめて“自分が食べたものが、自分の身体をつくる”という当たり前のことを、身を以て痛感します。
“食べること”にもっと関心を持とうと、その頃、ほとんどしていなかった自炊に挑戦。料理本を片手に挑戦するも、衝撃の事実に直面します。
“出汁○カップ”と書かれた文字。和食ならどのレシピにも書かれているこの“出汁”。私は“白い袋を破って、顆粒をお湯に溶かすもの”だと思っていたのです。
和食の基本であるホンモノの“出汁”さえ、知らない。
私は必死に“出汁のとり方”を教えてくれる料理教室を探しました。
かつお節との出逢い

そこで、かつお節を削って出汁をとる体験講座に参加。昆布の入ったお鍋に、実際に削ったかつお節を入れて出汁をとりました。“お湯にかつお節と昆布を入れて出す”。そんなことで“お湯”に味が付くの???と半信半疑な私でしたが、それを口に入れた時、全身に衝撃が走ります。頭から爪先まで沁み渡り、全身の細胞が喜び、浄化されていくような不思議な感覚。以来、“ホンモノの出汁”の魅力に惹き込まれ、かつお節を削る暮らしが始まりました。
きえちゃんとの出逢い

その頃、ひとりの小さな女の子と出逢います。名前は、きえちゃん。離乳食が始まったばかりの小さなきえちゃんは、お母さんに抱っこされて、とある出汁とり教室に参加していました。昆布とかつお節でひいたお出汁をコップに入れて飲んでいた時、突然、お母さんが泣き出しました。見ると、きえちゃんはコップの中身をごくごく飲み干すと、お代わりをお母さんに催促しています。「どんな離乳食を作っても全然食べてくれなくて、藁をもすがる想いで参加しました」。ほっとするお母さんの嬉しそうな表情と、すごい勢いで元気に出汁を飲み干すきえちゃん。お二人の姿を見た時、かつて全身を襲ったあの衝撃を思い出しました。
顆粒と本物の出汁、私たちが次の世代に渡すべきバトンは?
なくなりつつある大切なモノを、きちんと、きえちゃんたちの世代に手渡したい。強くそう思いました。
ミニ削り器との出逢い

しかし、家庭ではなかなか場所を占める削り器。次第にその大きさが苦痛になり始めた頃、とある料理教室で、更なる運命の出逢いをします。手のひらにちょこんと乗る“ミニ削り器”。私は一目で恋に落ちました。
あまりの可愛さに、みんなに見せびらかしたいと、ある日の飲み会で、カバンに仕込んだミニ削り器を取り出し、突然削り出しました。その瞬間、まわりのみんなのまん丸くした目と言ったら。次から次に「やってみたい!」と大人気。終いには、隣の席のおじさん達まで参加して、大いに盛り上がりました。以来、味を占めた私は、いつもカバンにかつお節とミニ削り器を入れて持ち歩くように。
誰もが楽しそうに、美味しそうにかつお節を削る姿を見て、また、父母世代の人たちが声を揃えて「懐かしい」「幼い頃は当たり前だった」という声を聞いて、今はほとんどなくなりつつある“かつお節を削る暮らし”は、現代社会においても、必要なモノなのでは、と考えるようになりました。
『ペイ・フォワード』
これは、私の大好きな映画です。とある中学生の少年が、社会の授業で「この世の中を良くするためには何をしたら良い?」という課題を出されます。そこで、少年は、自分が受けた恩をその人に返す(ペイ・バック)のではなく、別の3人に渡し(ペイ・フォワード)、その3人はまた別の3人に・・・という仕組みを考案し、実践を試みます。所詮は虚言とも思えるような彼の行動が、本人の気づかないところで、社会に大きな影響を与えていたという実話を元にした映画です。
削ラーの誕生
この映画を胸に、私は、とある目標を立てます。
”自分の人生で大切な30人にかつお節を削る楽しさ・美味しさを伝える”
その30人にきちんと伝えられれば、その人たちが、また次の30人に伝えてくれるのでは…。どんなに年月がかかっても、この目標を達成しようと、心に決めました。
そして、いつもカバンから削り器を出す私を見た飲み友達が、少し前に流行った、マヨネーズを持ち歩いて、なんでもかける“マヨラー”にちなんで、“削ラー”と命名。
このポップな感じ。決して「鰹節を削らなきゃ」と負担になることなく、気軽に楽しくやりたい、という私の想いを見事に表現してくれていて、とても気に入っています。
以来、この“削ラー”活動を10年ほど続けています。時々、有り難くも講座やワークショップに呼んでいただきますが、言葉やうんちくではなく、“削る楽しさ・美味しさを体感してもらう”ことが、“削ラー”の一番大切なことだと、肝に命じています。
チビ削ラー

ワークショップは、一番小さい子で、保育園の年少さん(3歳)からやっています。「子供に刃物を使わせるなんて危ない」と心配される方もいます。もちろん、刃物を使うので、100%安全です、とは言えませんし、時々、怪我をすることもあるのが事実です。(ただ、私のワークショップ経験上のデータでは、子供と大人、怪我をする確率は同じです。)
ちなみに、私には甥っ子が4人いますが、それぞれ3歳になった時、“チビ削ラーの儀“というのをやります。一緒に削ってみせて、後は自分でやってもらいます。どの子もみんな、すぐに削れるようになりました。お腹が空くと、削り器を取り出して、鰹節を削って食べます。


かつお節を削った日、子どもたちは、これでもかと言うほど、ご飯をよく食べます。自分で削ったかつお節を山盛りご飯にかけて。
ほとんどの子どもは、かつお節を見せても、それが何かわかりません。はじめは「怖い」「嫌だ」「嫌い」と敬遠するも、間もなく、取り合いになるほど夢中に削り始めます。ワークショップ後の昼食では、どの園でも、先生方がビックリするほど、子どもたちが勢いよくご飯を食べます。

後日、先生から「(息子が)帰宅するなり、かつお節削りたい!と言い出して聞かない」、「パックのかつお節を出したら、これじゃなくて美味しいやつがいい」、「うちになんで削り器ないの?」と保護者が困っておられます、とお便りをいただくこともあります。(笑)
子どもたちはきっと、自分の身体がなにを欲しているのか、喜ぶのか、わかっているのでしょうね。
この子たちのためにも、“かつお節を削る暮らし”を当たり前にできる社会を創っていきたいです。
